ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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11章 2029年

(およそ1999年時点のドル価値換算での)1000ドルPCは、人間の脳のおよそ1000倍の演算処理能力を持っている(毎秒2x10^19回の演算能力)。
 全人類の脳の演算処理能力の総和に、人類が作り出した全コンピューターの演算処理能力の総和を加えた、人類のもつ全演算処理能力の内、99%以上がコンピューターである。
 非人間による演算処理の大半は、超大規模並列ニューラルネットのために実行されているが、超大規模並列ニューラルネットの多くは人間の脳のリバースエンジニアリングに基づいている。
 大部分とまでは至っていないが、脳の特化した領域の多くについては解読がおこなわれ、脳の超大規模並列アルゴリズムが明らかになった。脳の特化した領域の数は数百にも上り、20年前に予想された数よりも多かった。特化したこれらの領域にあるニューロンの配線構造とアーキテクチャーのリバースエンジニアリングは成功し、コンピューターのニューラルネットワークに利用されている。コンピューターのニューラルネットワークは、人間の脳のニューラルネットワークに比べて、演算処理能力やメモリー容量とその他の改良の点で、かなりの高速化と大規模化を実現している。
 ディスプレイは今では目に埋め込まれており、永久の埋め込みと(コンタクトレンズのような)取り外し可能な埋め込みの選択枝がある。画像は直接網膜に投影されて、物理的な世界の上に高解像度の三次元像を上書きする。埋め込まれた画像表示装置は、画像を取り込むカメラの機能も合わせ持っており、入力と出力の両方をおこなうデバイスである。
 内耳の蝸牛への埋め込み手術は、元々聴力障害のためだけに利用されていたのだが、今では当たり前のものになった。この埋め込みをおこなうことで、人間と世界中のコンピューターネットワークの両者の間で、双方向の音声によるコミュニケーションをおこなうことができるようになった。
 神経と直接接続することで、人間の脳に広帯域の無線で接続することが完全にできるようになった。これによって、神経系統の特定の領域(例えば、視覚パターン認識や長期の記憶をおこなう領域)への接続を回避することや、これら特定領域が持つ機能の拡張や置き換えを埋め込まれた神経デバイスや外部のデバイスでおこなうことが可能になった。
 神経へのデバイス埋め込みは、視聴覚の知覚力と把握力、記憶力、推論力を強化するためにもおこなえるようになった。
 情報処理は、ユーザーの選択次第で、パーソナルにも(個人一人だけがアクセス可能)、シェアする形でも(グループがアクセス可能)、ユニバーサルにも(誰でもアクセス可能)おこなうことができる。
 三次元投影型のホログラフィックディスプレイはどこにでもある。
 微小なナノロボットは、今では人間の脳並みの演算速度と容量をもつマイクロブレインを備えている。産業用途で広く使われているし、医療用途にも使われ始めている。

  2029年も、2019年と同様、延長線上の予想という感じです。

 この本が出版された1999年というと、9・11が起こる前、もう15年前の話ですね。

 その後の大きな変化は、グーグルを始めとしたインターネットの進展、スマートフォンの爆発的普及によるモバイル化の2点だと思います。この未来図の中でも、インターネットやモバイルについては触れられていますが、やはりハードのテクノロジーの視点にとらわれていたのではないかという印象を受けます。個々の予想にも当たり外れはありますが、それでも将来のテクノロジーを一つの世界観で描いてみせたという点には敬服します。