ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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2014年音楽業界でアナログレコードが復活

LPの売上げが49%増加するも、老朽化した工場は苦戦

業界のデータによれば、今年はレトロなビニール盤のアナログレコードが800万枚近く売れ、昨年から49%も増加した。特にインディーロックファンを中心とした若者が、レコードを沢山買っている。ビニール盤の優れた音質と、溝に針を落とす操作の儀式めいたところに、若者は魅力を感じている。

新しいLP盤は毎週店頭に並んでいるが、そのLP盤を作る製造装置の方は老朽化しており、もう数十年も作られていない。業界が必要とするビニール材料の推定90%はたった1社によって供給されている。つまり、全米でいまだに稼働しているおよそ15のレコードプレス工場は、日々破綻と供給不足に直面している。

レコード製造業者の努力から見えてくるのは、今音楽業界は興味深い変化に悩んでいるということだ。レコード製造ビジネスはまだ息を止めてはいないが、なんとか持ちこたえているという状態である。

 

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コネチカット州ハムデンの小さな工場で、ロバート・ロッインスキーの10人ばかりの従業員は、LPレコードへの関心が復活するのになんとか歩みを合わせようと、全米のレコード製造業者向けの部品製造のために残業までしている。ロッインスキー氏の会社によれば、レコードを平らにして丸い形にするための鉄の鋳型の注文は2008年から3倍にも増えたという。

国中で数少なくなったレコード製造装置の部品業者、レコード・プロダクツ・オブ・アメリカ社の社長であるロッインスキー(67)は、「業界を復活させようという人もいるが、もうレコードの時代はすぎてしまった」と言う。

テネシー州ナッシュビルの最大手ユナイテッド・レコード・プレッシング社を含め多くのレコード製造業社はレコードを増産しているが、起業家が職人仕事中心のレコード業界を信頼して投資を行うようになるまでの大きな動きには至っていない。投資家は全米音楽売上げの2%を占めるにすぎない業界に大金を投じようとはしない。

昔なら数週間で届いた注文を、レコードレーベルは数ヶ月も待たされている。それというのも、レコードプレス機は1時間で約125枚のレコードしか製造することができないからだ。増産のためにレコード製造業者は機械を時には24時間フル稼働させているが、そのためにかさむメンテナンスと修理の費用も支払わなければならない。

スーパースターの大きな注文に対しては納品が遅れる。その結果音楽ファンは、フィラデルフィアのインディーグループ 、ザ・ウォー・オン・ドラッグや、フレンチ・エレクトニック・デュオのダフトパンクの新譜を求めて店の棚を漁っても徒労に終わることになる。多色、匂いつき、暗闇で光るといった仕様の特別なLPの場合は、もっと厄介なことになる。

インディアナ州ブルーミントンの独立レーベルファミリーであるシークレットリーグループの取締役、ニック・ブランフォードは、来年4月の「レコード・ストア・デイ」に自社のアーティストのLPがちゃんと店頭に並ぶよう注文の確認を今行っている。

 

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製造機械を増やすために、レコード工場のオーナーは埃を被っているプレス機械を世界中から探し求め、1万5千ドルから3万ドルも払って飛びつき、その機械の整備のためにそれ以上の金額をポンと出しているのだ。

ハーバード・ビジネス・スクールの助教授ライアン・ラファエリは、「技術の再浮上」について研究しており、こうした産業界の裏側に精通している。

スイスの機械時計、万年筆、独立系書店などは、顧客のために刷新を行うことで停滞からの再浮上を果たした例であり、その結果として起業家からも投資を集めているとラファエリは言う。

「問題は、再浮上を果たせるほどの需要がビニール盤にあるかということです。結論を下すにはまだ早いでしょう」

こうした再浮上の途上には数多くのハードルがある。

カリフォルニア州ロングビーチで3人で営まれているタイ・プラスチック・アンド・ケミカル社、ただ一社が全米のレコード生産に必要なポリビニール塩化化合物の大半(同社によれば約90%)を供給している。

同社の北米部長ジャック・チチェレッロによれば、以前勤めていたカイザー・センチュリー社が2000年代半ばに廃業して以来、アメリカにはビニール樹脂材料のサプライヤーは残っていないのだそうだ。

タイ・プラスチック・アンド・ケミカル社はタイのプラスチック製品メーカーであり、北米での事業拡大にあたりチチェレッロに声をかけた。そして、チチェレッロと何人かの同僚が、タイ製のビニール樹脂材料をアメリカのレコードプレス工場向けに輸入する事業の立ち上げを提案したのだった。

しかし、物事はままならない。10月、ブラック・フライデー向けに増産を行っていたカンサス州サリナのクオリティ・レコード・プレッシング社(QRP)の工場へ、ビニール樹脂材料を運んでいたトラックが壊れてしまった。QRPのグレイ・サルストローム部長によれば、ビニールが殆ど底をついてしまったそうだ。

レコードに転写するための原盤を作るレコード製造の初期プロセスは、さらにいっそう職人的だ。

レン・ホロビッツ(62)は、レコードの原盤作成に用いる細心の注意を必要とする電子部品を扱える数少ない一人だ。アナログテープやデジタルファイルの音源を、原盤となるディスクに溝として掘るためには、カッティング旋盤を用いる。9月にあるマスタリング会社のカッティング旋盤が故障してしまった。修理には数週間を要した。

ホロビッツは、「カッティング旋盤が故障したら、レコードのプレスや生産が止まってしまう。原盤がなにも作れなかったら、生産が全部止まってしまう。本当のパニックになってしまう」と言う。

実際のレコードプレスの生産過程は、驚くほど労働集約的だ。見学を行ったニューヨークの小さなブルックリンフォノという工場でも、常にプレスマシンの監視を行わなければならなかった。些細なことで調子が悪くなるので、それを調整する労働者が必要なのだ。

トーマス・バーニックは妻のファーンとこの工場を経営しているが、「装置はボロボロで、心配のし通しだ」と言う。彼は新しい装置を作ることもできるだろうが、それには25万ドル以上もかかり、高くて手が出ない。

設備を導入しても、技師はまず若いスタッフを育成しなければならない。ロッインスキーのようなベテランは引退していくので、業界の人材を維持することも大きな課題である。

アメリカのこの業界の数少ない部品サプライヤーの社長であるロバート・ロッインスキーは「業界を復活させようという人もいるが、もうレコードの時代はすぎてしまった」と言う。ロッインスキーは、父親の工場で働き始めた16歳の時から、この業界にいる。1946年、コネチカット州ブリッジポートにある全米初のLP工場でレコード生産を行っていたCBSレコードから、ロッインスキーの父親スタンリーはレコード製造装置の設計を請け負った。そして、レコード関連の装置を工場の主眼に据えた。

それから50年余りがたち、ロッインスキーは、古い装置を探す人たちと処分したがっている人たちの間で装置の仲介業も行っている。しかし、使用できる装置を見つけることもむずかしくなってきている。レコードプロダクツ社を引き継ぐ相手がいないので、おそらくロッインスキーは引退時には会社を売却することになるだろう。しかし、しばらくはコンサルタントを続けたいと彼は言う。

「もう全部やるべきことはやってある。別に今捨てなくてもいいじゃないか」

 

 

 「ウォークマン」を「ソニーのiPod」と呼ぶ若者もいるそうですが、生まれた頃からデジタルがあった世代にとっては、アナログレコードは珍しいものなのかもしれません。売れているLPのリストを見ても、こだわりが強そうな人を引きつけている感じですね。