ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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日本人がイスラム国の人質に同情しない理由

イスラム国にとらわれた二人の人質に残された時間が残り少なくなる中、日本人は人質は自業自得だと考えている。

 

日本政府担当者は、2億ドルの身代金の支払期限とされた時間が過ぎたにもかかわらず、引き続き、シリアでイスラム武装勢力に囚われた2人の日本人の開放を求める圧力をかけている。

 

ナイフを持ち覆面をした兵士に脅されている2人の日本人のビデオをイスラム国が公開して以来、ニュースは人質の事件で持ち切りである。実に日本的なのだが、怒りの大半は人質自身に向けられている。というのも、彼らは無謀すぎる行動をとったと多くの人に見なされているのだ。「日本人は、彼らが自分で危険な道を選択したのだから、彼らの問題であって、政府や納税者の問題ではないと考えている」とテンプル大学東京校アジア研究学科ディレクターのジェフ・キングストンは語る。

 

湯川遥菜(42)は事業に失敗し、民間軍事会社を設立し再起しようとしていたが、イスラム国支配地域に入り8月に捕虜にされた。後藤健二(47)はベテランのフリーランスジャーナリストであり、友人に語ったところによれば、以前にシリアで会ったことのある湯川氏の開放を試みるためにシリアに入り、10月に捕虜にされた。

 

火曜日に公開されたビデオで、イスラム国兵士は、日本の安倍晋三首相が中東の紛争においてイスラム国と交戦中の国を支持し2億ドルの援助をおこなうことを非難した。イスラム国の支配はシリアとイラク両国の広大な地域に及んでいる。72時間以内に同額の身代金が支払われなければ、人質を殺すと兵士は述べた。日本政府担当者は、この締め切り日時を金曜日の午後とみている。

 

安倍総理は、人質問題で切り上げられた6日間の中東訪問の間に約束された援助金は人道的目的だけのためのものであることを強調し、政府は人質の解放を実現するために全力を尽くしていると述べた。しかし、彼はテロリズムには屈しないとも宣言しており、アナリストの大半は、表だった形であろうとなかろうと、安倍総理は身代金の支払いを認めないだろうと考えている。

 

日本語でのソーシャルメディアのコメントは2人の人質に対して同情的ではないものがほとんどだ。特に、湯川氏に対しては同情的ではない。湯川氏が同僚に以前語ったところによれば、彼は性器を切断して自殺しようとしたことがあり、その後、ふつうは女性名である遥菜に改名したということである。後藤氏については、少なくとも窮地にある人を助けに行こうとしたことで評価されている。1000回以上リツイートされたあるツイッターの投稿は、「あの地域に行く前に起こりうる結果を、特に今は、理解しておく必要があった。彼らの自己責任だ」と述べている。

 

別のツイートはこう言っている。「後藤氏も湯川氏も、日本政府の要請に基づいてシリアに行ったわけではない。冷たいかもしれないが、イスラム国グループのテロ行為に屈するわけにはいかない」

 

日本政府は、2012年3月シリアの内戦がエスカレートしたために全ての外交官をシリアから引き揚げ、全ての日本国民に対して現地へ渡航しないよう警告をおこなった。東京側では、大使館がないために、この地域で戦闘中の数多くの政府、反乱兵、イスラム国の入り乱れる情報をかき分けて調べなければならなかった。しかし、昨年湯川氏と後藤氏がこの地を訪れたときには、まだ現地のアドバイザーが機能していた。

 

中東における日本人の人質問題が国民の同情ではなく非難を引き起こしたのは、これが始めてではない。2004年にイラクで3人の救援活動家と平和活動家が誘拐されたときには、報道や初期のソーシャルメディアに彼らは非難を受けた。南イラクから平和維持活動部隊を撤退させろという要求を日本政府は拒否したが、人質は一週間後無事解放された。日本における非難は激しいものではなかったが、解放された人質は自主的に隠遁することを余儀なくされた。

 

「人質になった民間人は自主的に活動し、イラク戦争に関して自主的に批判的な発言をした結果として、間違った理由で日本が世界中で報道のやり玉に挙げられることになる要因を作った裏切り者のトラブルメーカーであると、大衆は考えたのです」と京都の同志社大学グローバル・コミュニケーション学科のマリ― ・ト―ステン教授は言う。

 

12月に実施された不意打ち選挙で圧倒的な勝利を収めた安倍総理に対する支持は高まるかもしれない。頑とした保守主義者かつ国家主義者である安倍総理は日本の経済再建に注力することを約束している。しかし、次第に国防予算増額を進め、長い間日本の軍事にとって制約となってきた条件を緩和し、国外に対する「積極的平和主義」政策を進めようとしている。

 

「今回の事件は、安倍総理の提唱する「積極的平和主義」がどういうものか実際に国民が目にする初めての機会になったが、非常に不安にさせられる」とキングストン教授は言う。「これまでは、イスラム過激派はよその国での出来事に過ぎなかった。日本が国際社会で高い地位に立とうとするのはどういうことなのかを知り、国民は怖じ気づくかもしれない」

 

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今回の事件では、後藤さんの母親の会見も、交渉に名乗りを上げたイスラム法学者の会見も、事件の国際的な重要性からか、外国人記者クラブでおこなわれていました。どちらも会見内容には首をかしげたくなる面があり、ネットでも様々な意見が飛び交っていました。海外では、どのように受け止められているのだろうかと記事を読む中で見つけた記事です。

後藤氏から見ても、英語も満足に話せない湯川氏は不安に見える存在だったようですし、経歴を見ても、民間軍事会社をやっていけるような人物には見えません。この記事では差別的にならないように簡単に事実を並べているだけですが、湯川氏のこうした人物像については、新聞紙上では紹介が避けられていた感があります。だから、殺されても仕方なかったということにはなりませんが、知れば知るほど同情しにくくなるのは事実です。

この記事では、ネット上の情報と日本在住の外国人識者の反応を元にしていますが、こういうパターンの日本報道はよく見かけます。こうした視点を取り上げているという点では良心的な記事だと思いますが、本当は日本人自身による海外に向けた発信というのが不足しているということだと思います。オバマ大統領は人質交換も含めてテロリストとの交渉に反対しているわけですし、どこの国でもメディアにはある程度のバイアスはつきものなのだな、という気もします。

人命第一で開放を求めるべきというのは当然ですが、日本国内の世論としては、自己責任という声もあるのは事実だと思います。政府としては、人命軽視するわけにも行かず、国際協調や先例となることを防ぐという観点からも身代金を払うこともできないので、もう結果がどうであれ、努力を重ねるしかないという状態でしょう。言い訳を作るために努力しているようなものかもしれません。イスラム国が話の通じる相手とは思えませんが、解放を願うばかりです。