ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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「予約受付中」製品は最低

消費者が夢と希望にお金を払って、空約束を受け取ることが多くなってきている。

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Mr. Everythingを紹介しよう。「携帯電話を充電したいし、音楽も聞きたい?ならば、音楽をどこに持ち出すときでも、Mr. Everythingも持っていこう。コードが絡まって困る?Mr. Everythingなら、すっきりです。いざというときの準備は大丈夫ですか?Mr. Everythingがあれば、電源やネットワーク接続の心配は要りません。Mr. Everythingがあれば、問題は解決、安心です」Mr. Everythingは、「サタデー・ナイト・ライブ」のジョークをパクっているようなので、彼らの代わりに締めくくっておこう。Mr. Everythingは、床のワックスにも、デザートのトッピングにもなります。

こんなことを言っては彼らに悪いかもしれないが、実際はもっとひどいことだと私は考えている。今も、Mr. Everythingを購入することはできないのだから。

 

宣伝担当の売り込みをさんざん目にしたし、自分で調べさえしたのだが、最初にMr. Everythingに出会ったのはいつだったか、思い出せない。しかし、去年こうした製品に100以上お目にかかったということは、自信を持って言い切れる。「こうした製品」と言っているのは、道具箱の4倍ものサイズがあり、LEDライトもついた、ワイヤレス給電可能な大電源付きのスピーカー製品のことではない。それは確かにオリジナルな製品だろう(もし、販売されればだが)。そうではなく、私が言いたいのはベーパーウェア(実際は完成する見込みがない製品)のことだ。というのも、Mr. Everythingがそうであるように、今日、前宣伝されている製品のうち驚くべき数の製品が、実際に製品になっていないのだ。

 

すべてのクレジットカードを置き換えるクレジットカード、Coin。プライベートのアドホック電話ネットワーク用アンテナ、GoTenna。パスワード保存・表示用の指紋認証式USBドライブ、MyIDkey。スマートフォン接続可能な車載ヘッドアップディスプレイ、Nadvy。これらは、やっかいな「予約受付中」製品のなかでも、特に注目を集めた4例にすぎない。そこそこテクノロジーに詳しくてメディアに目を通している人なら、この4つの製品のことを多分聞いたことがあるだろう。問題なのは、このどれも(少なくともまだ)商品として存在しないということだ。率直に言って、永遠に商品にならないということも有り得る。

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フライブリッジ・キャピタル・パートナーズのベンチャー投資家、マシュー・ウィゼイラーの調査によれば、ベンチャー企業による91のクラウドファンディング製品が昨年度は5億7500万ドルの資金を集めたが、期日までに商品を出荷できたのは、その中の20%にすぎない。キックスターターや投資はひとまず別として、買い物の話として単純に考えてみよう。アマゾンに注文した商品5つうち4つの納品が遅れることになったら、プライム会員をやめようと思うだろう。しかし、実際には、ベンチャー投資家やクラウドファンディングのサポーターも含めて、人々はますます企業の希望や夢に金を払い、引き替えに受け取るのは約束だけということが多いのだ。

 

ドラゴン・イノベーションのCEO、スコット・ミラーはクラウドファンディングが大好きである。公平を期して言っておくと、彼の会社の「ドラゴン・サーティファイド」プログラムは、製品が「予約受付中」の段階をくぐり抜けて、顧客の手に届けられるように支援をおこなうものである。「まだ存在しないもののために財布の紐を緩めようというのは、なにか訴える物があるということだ」と、彼はいう。しかし、前金を集めることの本当の利点は、製造費用を捻出するための資本を集めることだ。そして、どれだけの在庫を作れば良いのかを製品設計者が把握できるようにすることだ。さらに、それは口コミマーケティングのための安くて手軽な手段でもあるのだ。

 

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誤解しないで欲しいのだが、安くて手軽なマーケティング自体に悪いことなど何もない。仮に、破産して苦難の道を歩むことになるのだとしてもだ。Pebbleが保持していたクラウドファンディングの記録を追い抜いた、クーラー版のMr.Everythingとでも言ったところのThe Coolestは、巧みに波に乗り、ドラゴン・イノベーションの助けも借りて、6万2千人以上の支援者からの1300万ドルの出資に応えるべく、7月までに製品を出荷しようと奮闘している。正確にいうとすでに5ヶ月遅れているが、客観的に見れば、この発明者は会社ではなく一個人であり、クラウドファンディングを始めるにあたっては5万ドルの資金を集めることしか考えていなかったのだ。

しかし、The Coolestのキックスターターの記録はすでに破られている。Pebbleは、記録破りのキックスターターにおける最初のキャンペーンの後、ベンチャーキャピタルから2500万ドル以上の資金を調達した。そして、Apple Watchの対抗馬となるPebble TimeをクラウドファンディングのWebサイトで立ち上げて、さらに2000万ドルを調達し、記録を再び塗り替えようとしている。

 

「Coolestから資金調達記録ナンバーワンの座を奪還し、さらに記録のバーを上げることは、マーケティングの非常に良い機会だった」と、ミラーは語る。「スタートを切るなり勢いをつけて、良い記録を人々に示すことができたのだから。それには間違いなくメリットがある」

 

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それが彼の意見だ。だが、私の意見では、Pebbleの行為はケチなものだし、クラウドファンディングによるマーケティングの利点こそが「予約受付中」問題を引き起こしているのではないか。噂になるようにと、企業は自身のWebサイトでクラウドファンディングを始め、新製品を単に「予約受け付け」ボタンで飾り付ける。そして、手に取ったり、あれこれと突っ込むことはおろか、レビューをすることもできないような商品を、評論家に取り上げて大騒ぎしてもらおうとしているのだ。そして、テック系のメディアでは報道がこだまし、報道機関もこれに食いつき、その実体があろうとなかろうと、新製品の話でWebサイトを更新しようと大騒ぎをしているのだ。マーケティングが過熱するあまり、レポーターは発売延期のニュースをしょっちゅう受け取るものだから、それは業界では冗談のネタになっているほどだ。

 

これはメディア側の問題のようにも見える。しかし、問題はそれだけではない。「予約受付中」を謳って、検討中の商品に喜んで飛びつくお客に、存在もしていない製品を売りつけているのは、企業なのだから。そして、これらの商品が形にならなかった場合、そのハードウェアはベーパーウェアになるが、支払われた代金が紙屑になるわけではない。ただ、それはもうお客の懐にはないというだけだ。たかが100ドル、200ドル、300ドルの話とはいえ、バブルがはじけるのだ。平均80%が期日に遅れる製品を扱うこの「予約受付経済システム」は、常にどこかではじけ続けている小さなバブルの大群なのだ。

 

そして、今、Apple Watchのような製品の立ち上げを迎え、「予約受付中」はすっかりメジャーなものとなった。言うまでもなく、Appleが発売前から予約を受け付けるのはこれが始めてではないことは承知している。しかし、発売日の店頭に売り物の商品が一つもないという事態は初めてだろう。

 

Appleの予約受付の戦略は、需要を煽ることよりも、製造立ち上げに重点があるだろうと、ミラーは推測している。「通常の立ち上げ時には、いきなり製造設備をフル稼働させることはしない。確実にできるところから始めようとするだろう」と彼は言う。したがって、実際にフル稼働で生産できるのが7月だとすれば、「需要と飢餓感を醸し出すのは、おそらくかなり良くできた戦略だ」とミラーは見ている。

 

それはそうかもしれない。だが、それは他社が見習うべき良いお手本ということにはならない。まず、製品の告知が早すぎると、他社が飛びかかってきて油揚をさらわれる危険を冒すことになる(Coin の競合であるSwypPlastcが好例だ)。次に、正直に言うが、炎上に見舞われた私のようなジャーナリストは、そうした企業を二度と取り上げようとはしないだろう。「絶対に」予約受付中の製品を取り上げないとまでは言わないが、可能な限り避けようとするだろう。

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当然、私がもうApple Watchの記事を何本か書いていることも言っておかなければならない。では、なぜ他の会社の製品は取り上げないのか?明らかに違うのは、他社はAppleではないということだ。1780億ドルの現金を貯め込んでいる会社でもなければ、半ダースほどのメジャーな製品カテゴリーを定義もしくは再定義した会社でもないということだ。それでも、Appleを許すわけにはいかない。私は注文受付から7分後にApple Watchを注文したというのに、手にできるのは発売日から3週間後だというのはどういうわけなのか?Appleには責任を果たしてもらいたい。やればできるはずだ。

 

 

結局、Apple Watchが届かないので怒っているわけですねw。それでも、それをネタに記事を書いてしまうのだから、したたかです。

 

この「予約受付中」問題は、製品予約の前払いとベンチャーへの投資が曖昧になっていることが問題なのではないでしょうか。ベンチャーへの投資のつもりであれば、失敗は当然のリスクであり、製品が実現しなくても投資が失敗したということで、出資者も納得するでしょう。しかし、製品予約の前払いの積もりであれば、詐欺に遭ったように思うでしょう。そこの境界線を明確にしないと、今後は訴訟になるケースも出てくるのではないでしょうか。

 

それでも、100ドル、200ドルといった額であれば、予約をする人が買っているのは、むしろ、本当に夢なのかもしれません。

 

 

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