ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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ブルース・ジェンナー、トランスジェンダーを告白、「これが自分だ」

これは衝撃的だ。というのも、ブルース・ジェンナーは共和党員なのだ。

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金曜夜のカミングアウトは、共和党トランスジェンダーに平等の権利を認めていないことを考えれば、驚きだった。しかし、それはさておき、長いこと待ち望まれていたABCニュースでのダイアン・ソイヤーによるジェンナーのテレビインタビューには、それほどの緊張感はなかった。しばらく前から、ジェンナーが自身を女性と見なしており性転換のプロセスを始めたことは、かなり明らかになっていたからだ。

 

疑問がもたれていたのはこの点ではなく、彼の五輪王者としての威信がトランスジェンダーによってどうなるのかということだ。ジェンナーは露悪趣味にかけては際だった存在であり、カミングアウト自体が(彼の出演していた)「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」のエピソード並に低俗でわざとらしいリアリティーショーに映るリスクがあった。

 

しかし、そうはならなかった。ジェンナーは、情熱と威厳をもって、自分自身についてうまく説明した。時に涙ぐみながら彼が示した気持ちは、真摯なものに思えるし、実に心に訴えるものだった。ジェンナーはソイヤーに、自分をブルースと呼び、男として扱ってくれ、これが男として最後のインタビューになるからだ、と話した。そして、将来会ったときに自分の名前がどうなっているのかは言わず、彼の内面にある自分自身を「彼女」と呼んだ。

 

ジェンナーはすべてを説明したわけではない。この番組は、対決的な姿勢のインタビューではなく、なにかを探り出そうとするものでもなかったからだ。つまり、有名人を公共広告にしようという、ソイヤーとジェンナーの注意深く協力的な努力の賜物だったのだ。

 

専門家とビデオクリップの力を借りて、ABCは性転換の世界に関する情報をあげながらジェンナーの物語を仕立て上げた。タイム誌の表紙や、賞も受けた米アマゾン・スタジオのコメディードラマ「Transparent」といったお墨付きの印をつけて、鬱や孤独感、時には自殺に至ることすらある、消えることのない心の傷を示したのだ。ABCは、クリスティーン・ジョーゲンセン(性別適合手術を行なった世界初の人物)やテニス選手ルネ・リチャーズ(性転換をおこなった)の経歴についても紹介した。

 

「私は誰の肉体にもこだわりません。私はただ人間であるということなのです」とジェンナーは語った。「私の脳は、男性である以上に、もっと女性なのです。」ジェンナーは、二人が計画しているプライベートのディナーで着ようとしている黒いカクテルドレスをソイヤーに見せたときも、女性の服を着て映されようとはしなかったが、それは正解だ。ジェンナーは、彼の女らしさは性的な面や見た目ではなく、内面にこそあるのだと説明した。彼の新しい肉体のタブロイド向け写真をパパラッチに提供する必要などありはしない。

 

今のところ、新しく見つけた自由に対する夢は慎ましいものだ、と彼はむしろにこやかに言った。「いつも欠けてしまうのだが、マニキュア液を上手く塗って長持ちさせられる」ようになりたいのだと言う。

 

この番組がカミングアウトしたのは、性同一性だけではなく、テレビ番組についてでもあった。ジェンナーは、リアリティーショーで演じた役柄と自分自身を区別しようとした。テレビチャンネル「E!」で彼が演じた、ちょっと間が抜けていて、知らないのは父親ばかりといった役柄のイメージを脱ぎ捨てて、もっと印象的で説得力のある彼自身の実像を占めそうとしたのだ。ソイヤーが、「カーダシアン家」のことがあるので、見ている人たちはこれもまた売名行為だと思うかもしれないと言ったときには(彼女は「あのリアリティーショー」としか言わなかったが)、ジェンナーはすでにそれを織り込み済みで、皮肉めいた様子でもあった。「ああ、そうだね」と、ジェンナーは物憂げに答えた。

 

その問を否定する代わりに、ジェンナーは、リアリティーショーを通じての彼のキャリアを、彼の新たな天命の土台を作るために支払った代償だと捉え直してみせた。ソイヤーが「恥知らずなプライベートのたたき売り」と評するところにも触れながら、「ああ、それは分かっている」と彼は言った。だが、これは違うのだと言う。「今これは、良いことをしようとしているのだ。世の中を変えようとしている。本当に、堅くそう信じている」と、身振りを交えながら彼はソイヤーに語った。「『カーダシアン家』やリアリティー番組のおかげで世の中への足がかりができて、世の中に出ていくことができるようになり、本当になにか良いことができるのなら、それに満足だよ。何も問題はない。わかってくれるかな?」と、彼は続いて言った。

 

しかしながら、彼のリアリティーショーとの日々はまだ終わっていない。ジェンナーは、この夏に放送される8エピソードのドキュメンタリーを「E!」チャンネルで撮っているが、「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」では認めていたようなカメラのアクセス許可とは一線を引いていると、彼は言う。さらにどんな医療行為を受けるとしても、撮影クルー抜きで、彼はプライベートにおこなうだろう。「これに関しては何も撮影していない。何も撮らないよ。それは、僕にとってひどい侮辱になる」と彼は述べた。

 

ジェンナーはインタビューの間ずっと愛想が良かったわけではなかったが、誠実に映った。嘘の人生を生きてきたという彼の言葉の多くは納得がいく。1976年のオリンピックのスターであった彼は、選手として成功するという目的への執念が、他のすべてに目をつぶらせていたと説明した。そして、「自分自身について悩むことはなかった」と彼は付け加えた。

 

ジェンナーが自分自身を保守的な人間だと評したことに対して、ソイヤーは驚いた様子だった。共和党のリーダーたちにトランスジェンダー権利運動を擁護するよう求めるか、と彼女に聞かれても、ジェンナーは自信たっぷりだった。「ああ、すぐにそうするだろうね。彼らは受け入れてくれると思うよ」

 

2度の結婚でもうけた4人の子供も、支持を表明するためにインタビューに参加した。なかでもブランドンは理解的で、「おやじが、アップグレードのバージョンになるみたいだよ」と言っていた。

 

クリス・カーダシアンとの間の2人の娘も、有名な4人の養子も、この番組には登場しなかったが、みな最初のショックから我に返ったとジェンナーは言う(なかでもキムには、全くの驚きというわけでもなかった。というのも、一度ドレスを着ているところを見られたのだそうだ)。真実を語る上での一番の心配は子供たちのことで、これが苦痛なのは明白だったという。しかし、カーダシアンを含めてのことだが、元妻たちがどう感じるかということについては、彼は驚くほど無関心な様子だった。彼は元妻たちにはなんの不満も持っていないという。「正直に言って、彼女が本当に達者で理解があったら、多分まだ一緒にいただろうね」と、傲慢といえそうな調子で彼は付け加えた。

 

ハリウッドでは、勇敢さと図々しい自己顕示は紙一重だ。ジェンナーは困難な道に踏み出し、今後のライフワークにするという運動に参加するためには、考えうる最高の結果になった。

 

「人々が知っている自分や、今の自分に、さよならを言おうとしているんだ」と彼は言った。「自分自身にさよならを言おうとしているんじゃない。自分はいつでも自分自身だったんだから」

 

 

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オリンピックの十種競技の金メダリストであり、リアリティーショーでも有名だったセレブのトランスジェンダーの告白が、話題になっているようです。日本でも、渋谷区でトランスジェンダーの権利を訴える区長が当選しましたが、アメリカでは今後大統領選の争点にもなりそうです。当然、共和党の支持層では反対が多いでしょうが、選挙戦術として色々な対応が考えられるかもしれません。

 

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