ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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「ジュラシック・ワールド」の新しい恐竜についての科学的意見

映画としては面白いし、アイディアも見事だが、科学的には無理

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ハリウッドは、行きはよいよい、帰りは怖いという世界だ。しかし、古生物学者ジャック・ホーナーに関しては、これまでのところ心配に及ばない。彼は科学について大雑把な話をしながら、やっかいな問題をあしらうことができるのだ。

 

ホーナーはモンタナ州ロッキー・ミュージアムの有名なキュレーターであり、話題になった興味深い本、「恐竜の育て方」の共著者でもある。しかし、おそらく最もよく知られているのは、6月12日にまもなく公開される「ジュラシック・ワールド」を含めて、「ジュラシック・パーク」シリーズ4本の技術コンサルタントとしてだろう。すぐれた科学と同様に、すぐれたSFも、新しい発見と共に変化する。ジュラシック・シリーズも例外ではない。

 

マイケル・クライトンの小説を原作にした第一作は、充分にもっともらしいアイディアに基づいている。それは、恐竜の血を吸った直後に琥珀に閉じ込められた古代の蚊を集めて、恐竜のDNAが復元されるというアイディアだ。恐竜の血を分離し、現代のクローン技術をいくぶん施し、疑念を少々取り払えば、雷竜の出来上がりだ。

 

しかし、判明したのは、DNAはとてもではないが、それほど頑丈なものではないということだ。適切に保存すれば、DNAは最大で数百万年持つ。だが、恐竜が死滅してから、6千5百万年も持つだろうか?可能性はないだろう。

 

そこで、新作の映画ではひねりが加えられている。元々の仮定を完全にひっくり返すのではなく、アレンジを加えている。ギガントザウルス、ルゴプス、マジュンガザウルス、カルノタウルスという実在した4つの恐竜の復元遺伝子から作り上げられた、まったく新しい恐竜、インドミナスレックスを考え出したのだ。

 

人工的な遺伝子操作による動物は確かに存在するので、ホーナーはたしかに旧作に対して科学的な改善を新作に施した。最近のインタビューで、ホーナーは、「ハイブリッドを作ることの利点は、あらゆる遺伝子を他の動物から集めて混ぜ合わせ新しい動物を作り出すことができることです。それは、恐竜をDNAから復活させることよりも、実際のところ、ずっともっともらしいのです」と述べている。

 

それは、理屈ではもっともらしいが、彼が言うほどにはうまくいかないだろう。ホーナーは、恐竜のDNAについて、研究室で最先端の研究をするだけではなく、公の場でも話をしている。広く一般に波紋を投げかけた2011年のTEDトークにおいて、ニワトリをリバース・エンジニアリングすることで恐竜を効率よく作り出す可能性について、ホーナーは論じている。現在の鳥類は恐竜に最も近い生きた親類であり、琥珀の一片中の死んだ蚊よりも、恐竜のDNAをはるかに良くとどめているのだ。かぎ爪を羽に変えた遺伝子配列を無効化し、鳥の尻尾の代わりに恐竜の尾を発生させていた遺伝子を再び有効化すれば、数千万年の間というもの目にされることのなかった動物を復活させることができるかもしれない。

 

2014年に、ホーナーと同僚たちは、鳥の尾の進化に着目した論文を発表した。それ以前にも、ハーバード大の遺伝学者マシュー・ハリスが、ワニのような歯を持つニワトリを作り出すことまでやってのけている。(これらの研究でニワトリが取り上げられることになるのは、ニワトリが我々の食卓に良く上るのと同じ理由からである。つまり、安価で、家畜化されており、豊富にいるからだ)

 

遺伝子操作の科学は、時計の針を逆回りさせてニワトリの進化を巻き戻すといった夢をはるかに超えて進歩しているが、その歩みは比較的穏健なものである。一般的に、遺伝子操作で作り出される動物は、一つの特性を作り出すために遺伝子を継ぎ合わされており、見てそれとわかる単一の種である。例をあげてみよう。クモの糸を乳に含むヤギは、工業用途で役に立つ。神経を保護するミエリンのためのタンパク質を作り出す雌牛は、神経変性の病気治療に使い道があるだろう。そして、汚染の少ない肥やしを排泄する豚ができたのは、マウスのDNAをほんの一部利用したおかげである。

 

こうした例のどれをとっても、ホーナーの考える生物ミックスのシナリオからはかけ離れている。それには、理由がある。単純なイースト菌から複雑な人類に至るまでの遺伝子を研究してきた遺伝学者は、個別の種には個別の遺伝子があるというほど簡単なものではないことを学んできたので、ずっと謙虚だったのである。

 

むしろ、一つの種の比較的穏やかな特性でさえ、遺伝子機能の発現を切り替えるスイッチ機能を持っているあらゆる種類のエピゲノムとの相互作用を通じて、あらゆる遺伝子によって制御されている。逆に、こうした全ての遺伝子は、他のすべての遺伝子や組織を形成している特性と完全な調和を保ちながら機能しなければならない。

 

ここにたどりつくまでに進化は数百万年を要したのであり、任意の2つの種からの遺伝子を混ぜ合わせて、得体の知れない生物学的なカオスを生み出そうとしても、うまくいかないだろう。それが、犬が猫とつがったり、人がチンパンジーと交われない理由である。そしてまた、馬と驢馬の間にラバが生まれるように、種がシステムの脇道にそれることがあっても、その結果生まれる子孫にはたいていの場合繁殖力がない理由でもある。手に負えなくなる前に、そんな実験は全部やめた方が良い。そして、これはたった2つの種の遺伝子について手を出した場合の話だ。研究室で3つや4つの種からの遺伝子を組み合わせようとすれば、事態は指数関数的にさらに複雑になる。

 

もちろん、ジュラシック・ワールドはまったくのエンターテイメントだ。SFのFはフィデリティ(正確さ)のFではない。ホーナーは依然として古生物学者の間では偶像的な人物だが、もう少し科学的に正確であっても良かったのではないか。ジュラシックシリーズの最新作はこれまででもっともリアルな恐竜のアニメーション描写だというのは、去年の「インターステラ」はこれまででもっともリアルなブラックホールに飛び込む体験の描写だというのと大差ない。いずれの映画にしても、家で見るような映画でないことは確かだ。

 

こういう突っ込みは言われたものが勝ちであることは間違いありません。こういうことを言い出すと、湖で生き残っていたネッシーや、海底から放射能の影響で目を覚ましたゴジラの方が、むしろ科学的には否定しにくい設定なのかもしれません。恐竜は無理だとしても、ニホンオオカミドードー鳥くらいなら、そのうちなんとかならないのでしょうか。まあ、復活しても、恐竜ほど面白いことにはならないでしょうが。

 

それにしても、ジュラシックパークは毎回毎回大事故が起こるのに、懲りずに良く再建しますねw。日本では8月7日公開の予定だそうです。


Jurassic World - Official Global Trailer (HD) - YouTube

 

 

新版 恐竜の飼いかた教えます

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追記:やっと、見てきました。恐竜は大迫力で面白かったです。ストーリーは、突っ込みどころも多かったですね。甥っ子が行方不明で心配なのは分かりますが、大事件の最中に責任者が避難を放り出して捜索に行って良いのか、いざというときの危険対策が杜撰ではないのか、最後は逃げ出した恐竜をどうしたのか、等々。科学的な突っ込みよりも、裁判になったらどうなるのかという法的な突っ込みを読んでみたいです。

 

問題の恐竜の見せ方も出し惜しみしていないし、サービスはたっぷりです。見世物のCGとしては、さすが、よくできています。でも、映画としては、もっとうまく作れるんじゃないのかというところは多かったですね。最後のおばちゃんが頑張るところだって、サスペンスとして盛り上げる仕掛けがあっていいし、大ラスもラスボスが出ればいいというもんでもないし、唐突すぎるし、それならそれで見せ方はあると思うし。CG見世物と割り切るなら、兄弟の家の話なんか、無駄以外の何物でもないですし。ああいう無駄な要素を付け加えるから、2時間超える映画になるんです。警備部門や科学者の部分も、大した事言っていないんだから、もっとすっきりさせればいいんです。ああいうのは、もっと見るからに悪人らしい顔の俳優にやらせれば、もっともらしい説明なんかしなくてもいいんです。まあ、映画ではなく、CG見に行ったので、文句言っても仕方ないですが。

 

見所は、なんといっても、飼育員のこのポーズですね。

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世界中の動物園の飼育員が真似をしたくなるのも分かります。まあ、この鳥のような人間っぽくない姿勢を考えた人は偉い。これは、子供も絶対真似するでしょうし。子供が真似すれば、つべこべ何と言われようと、こういう映画は勝ちです。