ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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中国の創造性を検証する

懐疑論者は誇張している。中国企業がイノベイティブな業界もある。

 

「ええ、中国人は、試験は得意ですね。でも、・・・。恐ろしいほど想像力があるというわけではありませんね。彼らはイノベイティブではありません。だから、我々の知的財産を盗んでいるのです。」ヒューレット=パッカードの前社長、カーリー・フィオリーナは、今年初めアメリカ大統領選挙への立候補を発表する直前に、こう断言した。フィオリーナの問題提起は、現在のビジネスにおける大問題の一つ、「中国はイノベーションを起こせるか?」という問に対する世界的な議論に油を注ぐことになった。

 

懐疑論者の論点は二つある。懐疑論者が、中国企業は自ら創造をおこなうことができないという証拠として挙げるのは、歴史的にも知的財産権が厳格に保護されていないことと、模倣品のビジネスモデルが中国では氾濫していることだ。昨年MITスローン・マネジメント・レビューに掲載された記事が主張するところでは、中国の知的財産権侵害によりアメリカの企業は1年に3000億ドルの被害を被っているという。また、懐疑論者は、中国政府のイノベーションを促進するための取り組みは高圧的で、実際には取り組みは遅れているという。

 

この議論で反対の論陣を張る新しい論文が公開された。設立者の名を冠したコンサルティングファームシンクタンクマッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)による研究、「グローバル・イノベーションにおける中国効果」においては、中国企業の将来性が確かに示されている。MGIはイノベーションをインベンションと混同するというよくある過ちを犯してはいない。使われることのない特許を大量に出願するのでも、収益の上がらない目新しい製品を次から次へと出すのでもなく、「売上げを増加させ、利益を増やすことこそが、イノベーションが成功していることの証明なのだ。」そして、7月14日に出版される経営コンサルタントエドワード・ツェーの本、「China’s Disruptors」では、政府のイノベーション政策によって(にもかかわらず、ではなく)中国の民間部門が力強く成長していることが論じられている。

 

MGIのチームは、中国とそれ以外の地域の2万に及ぶ企業の財務データを精査し、顧客と株主のために価値を創造しているかどうかを調べた。問題解決のために大量のエンジニアを投入することや(通信機器メーカーのファーウェイなどはこれが得意である)、製造プロセスを改良するといった基本的な研究開発を通じて、どれだけ価値創造をおこなったかを量ったのである。中国は、年月と多大な資金を費やして、国外のテクノロジーを吸収する「イノベイティブなスポンジ」になろうとしてきた。MGIのレポートによれば、それにもかかわらず、世界レベルの新薬や民生用の飛行機や車を作ることにかけては、西欧に比べて遅れているという。

 

しかし、このレポートでは、様々な業界において、中国は今や二つの面のイノベーションにおいては世界をリードしていることを見いだしている。まず、消費者向け製品の改善とその販売のためのビジネスモデルが一つである。そして、製造プロセスをより安く、より早く、より良いものに改善することである。その結果、家庭用品、インターネットのソフトウェア、消費者向け電気製品といったものについては、今や他国のライバルを凌ぐ売上げを上げるようになった。彼らは自国の市場が巨大であることの恩恵を受けている。しかし、彼らは迅速でもあるのだ。中国の消費者は、スマートフォンソーシャルメディア電子商取引をいち早く受け入れただけではなく、値段に敏感であり、ブランドを信奉しない。消費者向け製品を作る企業が中国で成功できれば、それは世界中どこででも通用する。

 

中国企業は新しいビジネスモデルを生み出している。西欧のネット企業は収益の大半を広告から得ている。しかし、中国の広告産業の規模はアメリカの約8分の1にすぎないので、中国のネット企業はユーザーの閲覧を換金する別の道を探らなければならなかった。テンセントは収入の90%をオンラインゲームから得ているが、それはソーシャルなプラットフォームとe-コマースを通じた仮想アイテムの販売によるものだ。2014年のユーザーあたりの平均売上げは16ドルで、これはフェイスブックよりも6ドル多い。オンラインビデオ・プラットフォームのYY.comは、面白かったショーのアーティストに投げる「電子薔薇」をユーザーに販売している。同社によれば、収入の分配を受けるトップクラスのパフォーマーは月に2万元(約3200ドル)以上を稼げるというが、これは工場労働者の給料平均の7倍である。

 

別の論点である国の役割についてはどうであろうか?悲観論者は中国の官僚主義は民間部門のイノベーションには不向きであるという。ある意味で、ツェーはこの見方に反論するとは思えない人物である。彼は、2つのライバルであるコンサルティング・グループ、ボストン・コンサルティング、そして次に、ブーズ・アンド・カンパニーで中国のトップを務めた人物である。彼の本では、毛沢東主義者による政策が残した灰の中から、中国大陸の起業家経済が勃興する様が、説得力が溢れる詳細に触れながら述べられる。そして、この資本主義の第一人者も、「多くの重要な分野においては、イノベーションを導くのに必要な、大規模かつ長期的なリソースのコミットメントは、企業のみによっては成し得ない」と主張するのだ。ちょうど、アメリカの大学や軍事研究に対する公的支出がシリコンヴァレー初期におけるHPのような有名企業を育てたように、中国でも「国の主導が必要なのだ」という。現在中国は、公的部門と民間部門を併せて年間2000億ドル以上を研究開発に投じており、GDP比ではアメリカには劣るもののEU以上であるという事実にも、彼は意を強くしている。

 

ツェーはまた、いかに中国の規制と法的なインフラがいっそうイノベーションに適したものになってきているかということを示す証拠を指摘する。中国最大のインターネット企業であるバイドゥは、音楽やビデオの海賊版を流通させていることで悪名高かった。しかし、規制による取り締まりと権利保有者からの法的訴えがあったおかげで、バイドゥは健全化に成功し、外国TV番組の合法な配給大手になることができた。

 

大半の中国企業が最先端技術を持っていないという意味ではフィオリーナは正しいが、価値を創造するイノベーションを行う能力がないと言ったら、それは間違いだ。HP自身、世界最大のコンピューター会社の地位を中国のレノボに追い抜かれているが、レノボは西側ビジネスを大胆に買収しただけではなく、見事な社内の製品開発もおこなっているからこそである。そして、イノベーションの場を設定するにあたり政府の役割があるというツェーの指摘も正しい。しかし、民間航空機と車製造においても、政府は産業構造を独裁している。航空機においては国内最大の国営企業AVIC社、自動車においては外国企業との強制的な提携を通じて、政府は独裁を行っている。中国企業イノベーションをおこなうことができる。しかし、中国政府はまだ、有効な援助と非生産的な干渉の区別を学んではいない。

 

冷静な分析ではないでしょうか。世界に広がる華僑を見れば、中国人の商売の才能は疑うべくもありません。「発明=インベンション」と「価値創造=イノベーション」の区別がつかない人の多い日本も、「ものづくり」に撞着している場合ではなく、こうした視点から自分のポジションを確認するべきでしょう。