ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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7850マイル彼方の女狙撃手

彼女の名は「スパークル」。ドローンを操る。めそめそした男が大嫌いだ。命を奪うのに躊躇することはない。

午後10時頃、北ラスベガスの家でベッドから這い出し、アンはシフト勤務の支度を始める。

 

赤茶色の髪の毛をアップにまとめ、オリーブグリーンの飛行服を履く。キッチンでシフト中の間食にする果物を袋に入れ、退屈な夜になった場合に備えて、バックパックほどもある弁当入れの袋に宿題も一緒に詰め込む。本を開く暇など大抵ありはしないのだが。

 

最後に、彼女のペット、小麦色をしたシャー・ペイとピットブルの雑種犬の頭をなでてやると、家を出て、多くの人々と同様に深夜勤務に出かける。ほとんどの人は街のホテルやカジノに向かうが、彼女が仕事に向かう先はクリーチ空軍基地、そして戦争だ。

 

空軍軍曹のアンは現在も遠隔自動操縦航空機(RPA、Remotely Piloted Aircraft)計器操作官、通称「センサー」である。クリーチ基地で、イラクアフガニスタンの上空を飛行する任務を与えられた偵察飛行中隊に所属している。しばしばドローンと呼ばれるこのRPA飛行機隊よりも無慈悲な兵器は、アメリカ軍の武器倉庫中を見渡してもまずない。十年以上前、アフガニスタンイラクで米国はRPAを飛行させ、テロリストや反逆者を発見する目として地上部隊を支援するために用い、多くの場合には火器で攻撃までおこなった。

 

出勤の車中でも、アンの心は、外の砂漠の風景にはない。同僚のドローン操作官の間では、彼女は「スパークル」で通っている。それは2009年のことだった。オバマ大統領はアフガニスタンへ派兵を行った。「スパークル」の心は7000マイル彼方の砂漠にあった。今日もこれからの24時間、犬を公園に連れて行き運動させて朝食のビールで一夜を終えるまでに、反乱者を追跡し、ヘルファイヤーミサイルがそいつを殺すのを観察し、そいつの葬儀を偵察するのだ。

 

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深夜勤務

 

RPAは、アフガニスタンからソマリア、シリアに至るまで、アメリカが現在行っている戦争のシンボルとなった。そして、アメリカの「ドローン」がアルカイダ工作員に初めてミサイルを撃って以来14年が経ったが、遠隔射撃の倫理と合法性は依然として激しい議論の対象となっている。今年初め、米政府は、アルカイダの捕虜となっていた自国市民の一人をドローンで誤って殺害したことを明らかにし、遠隔操縦機を攻撃に使用することが正当化されるのはどんな場合かという議論は新たな段階に入った。

 

木曜日、アフガニスタンソマリア、イエメンでのRPAの作戦行動に関してこれまで隠されていた新しい書類について、インターセプト誌が報じた。その書類はRPAが行ってきた悪事を明らかにしており、攻撃対象をどう特定するかという点について「致命的な欠陥」を見つけたという米軍内部の調査もそこには含まれていた。携帯電話を頼りにした結果、政府は間違ったターゲットを殺害することになった。その新書類はRPAの精度にも疑問を投げかけていた。2012年1月から2013年2月までの期間にアフガニスタンでは200人以上が殺害されたが、本当に攻撃対象だったのは35人だけだったと同誌は報じている。

 

「この常軌を逸した監視の対象はどんどん広がっている。人々の監視、拷問、名簿への追加、管理番号の割り当て、そして、予告無しの死刑。それが世界中の戦場で起こっている。一番最初から、これは間違っていたのだ」と書類の提供者は語っている。「我々はこれを野放しにしている。我々というのは、今この情報を知らされても何もしないアメリカ市民全員のことだ」

 

しかし、RPAに対する関心は高いにもかかわらず、21世紀最大の物議を醸している兵器システムを操作する人々の姿を、大衆が目にすることはほとんどない。例外的な報道は、攻撃、それも特に市民がミサイルで殺害された攻撃の場合くらいだ。昨年本誌は、RPA訓練基地のあるニューメキシコ州ホロマン空軍基地で、2ダース以上の空軍将校とRPAに携わる空軍関係者にインタビューを行い、基地での暮らしぶりや反テロリズム軍事活動に空から参加するのはどんな感じかといった話を聞いた。インタビューした人々の多くはホロマン基地を離れて作戦部隊に加わることになるので、パイロットや計器操作官はファーストネームコールサインで呼ばせてもらうことで同意を得た。

 

2009年のその日、スパークルが出勤してまずしたのは、オペレーションデスクでスケジュールをチェックして、深夜シフト勤務で誰と一緒に飛行するのか確認することだった。工場勤務のように、パイロットの仕事もシフト制であり、時には一度で8時間飛行することもある。パイロットも計器操作官も常にローテーションを組んでいるので、計器操作官はシフト毎に別のパイロットと飛行することもよくある。

 

その日、彼女は、元B-1爆撃機パイロットであり、背が高く手足もひょろ長いパトリックと飛行していた。パトリックは、元F-4戦闘機システムの士官である義父に低空飛行の話をされ、空軍に入ることを勧められたのだった。パトリックはB-1爆撃機部隊に配属されアフガニスタンで爆撃を行ったが、家族と離れて6ヶ月も暮らすのは長すぎたので、2009年に代わりにMQ-9リーパー部隊に志願した。RPA部隊は二つの世界の両方で生きるために最善の選択だと、彼は考えた。家で暮らしながら、戦闘任務飛行をすることができるのだ。

 

パトリックは部隊では「スペード」で通っているが、このコールサインは彼が家庭を大切にする男であるところから来ている。

 

現在はホルマン空軍基地で新米RPAパイロットの育成にあたっているスペードはこう言っていた。「俺は3人の子持ちの万年中尉でね。パイプカット手術をしたんだが、それが部隊に知れ渡った。それで連中は、去勢された(spayed)牝犬に引っかけて、俺のことをスペード(Spade)と呼ぶようになったんだよ。みんな、トランプか何かが理由だろうと考えるがね」

 

スパークルはスペードと飛行するのが好きだ。彼は悠々としており、仕事を任せてくれる。大学の学費の足しにするために、空軍に入る前はルイジアナのカジノで働いていた。空軍に入ると、衛星写真から軍事行動の証拠を探すためにノイズを取り除く画像分析の仕事を始めた。それから、遠隔操縦飛行機の訓練プログラムに移動した。彼女のコールサインの謂われは、彼女のヘッドセットのヘッドバンドとイヤフォンがデコられており、動きできらめくからだった。

 

「これをデコったのは、あの世で敵にダメ押しするためよ」とスパークルは言う。「急進的なジハード主義者達の大半は、女に殺されたら天国には入れないと信じている。連中の女性に対する扱いを考えたら、傷に塩を塗り込むのもなんでもないわ」

 

スパークルも、スペードも、建物のまわりが騒がしいのに気づいていた。

 

スペードの同僚が言った。「おい、出撃するぞ、俺たちのシフトで攻撃が始まるかもしれない」

 

今夜、ミサイルをターゲットに誘導するのはスパークルの仕事だろう。

 

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16秒時点

 

シフト勤務は必ずメインの事前会議室で始まるが、その大劇場さながらの会議室にはパワーポイント書類を投影するプロジェクターがあり、天候、アフガニスタンの目標地域、様々な任務で飛行しているリーパーやプレデターの状況などについて情報のアップデートが示される。全体事前会議終了後、スペードとスパークルは、今日の任務である攻撃の事前確認のため、そこに残った。別のリーパーの乗務員達もそこに加わった。

 

ターゲットはタリバン中級幹部だった。飛行部隊はこの数週間彼を監視していたが、遂に攻撃命令が下った。情報分析官はスクリーンにスライドを映して攻撃の手はずを示した。住宅地の拡大写真のスライドがスクリーンに映った。東側は共同墓地だった。西側が攻撃目標の人物が住む住宅地だった。家の外には、毎日のミーティングに乗って行くバイクがあった。

 

攻撃作戦は秒刻みで指示されていた。数週間の観察で、彼がバイクに乗ってから住宅地の外れに来るまで12秒かかることがわかっていた。計画では、住宅地と墓地の間の人気のない道路で彼を攻撃することになっていた。

 

スペードたちパイロットは、常にターゲットを目指す1台のリーパーを中心とする円上を飛行する。その誘導リーパーが離脱するのは、追跡リーパーが射撃地点に到着したときだ。33秒後の発射準備ができたのだ。情報部は、16秒後の時点でヘルファイヤーミサイルを彼に向けて発射するよう求めた。

 

この計画は攻撃計画としてはよくある程度の難易度だとスペードは言う。

 

「情報をすべて集めることにより、攻撃対象が合法であり付随的損害を最小にできることが確認できる」と、市民の巻き添えを指す軍隊用語を使って彼は説明した。「付随的損害が生じないように、A地点とB地点の間で彼を攻撃したかった。善人は怪我で済むが悪人は死ぬなんていう方法はないんだ」

 

しかし、RPAによる攻撃はこうした計画的な攻撃ばかりではない。アメリカは「署名的行動への攻撃」も行う。追跡対象がテロリストのような行動しか取らなければ、スペードのようなパイロットは引き金を引くことができる。こうした場合には、間違った人物を攻撃しているのではなく、攻撃で市民の命を犠牲にすることはないと確信することは難しい。アルカイダに囚われたアメリカ人捕虜、ウォーレン・ウェインスタインはこうした「署名的行動への攻撃」におけるアクシデントで殺害された。

 

事前会議が終わると、スペードとスパークルは、部隊の建物外に設置されたRPAのコックピットであるグラウンド・コントロール・ステーション(GCS)に歩いて行った。GCSは金属製輸送用コンテナくらいの大きさで、端にドアが付いていた。内部は、床に厚いカーペットがひかれ、一群のモニターと2脚の椅子が奥にあった。何台かの空調が音を立てて動き、GCS内部の電子機器を冷却していた。パイロットとセンサーがモニターを見やすいよう、明かりは薄暗かった。

 

GCSの中では、別の乗務員が交代の準備を済ませていた。リーパーはすでに飛行中であり、攻撃エリアを飛行していた。米軍の中でもRPA部隊は独特だ。米国から操縦しているドローンパイロット自身は離陸も着陸もしない。海外に配属されているクルーが離陸と着陸をすべて行う。これはRPA部隊の特殊技能である。米国のクルーはすでに飛行しているリーパーを引き継ぐ。

 

モニターには、事前説明のスライドにあった目標の住宅地がスクリーン一杯に映っていた。

 

「明かりがつくのを見張れ」と、そのパイロットはスパークルとスペードに言った。「まだ彼の姿は見ていない」

 

スパークルが先に計器操作を交代した。操作席に着くと、椅子をひいてコンソールに近づいた。モニターに近づくのが彼女の好みだ。キラキラ光るヘッドセットを椅子の端子につないで、モニターの画像を確認し始めた。

 

続いて、スペードも操縦席に着き、燃料ゲージなどの計器をチェックした。エンジンの音も聞こえず、リーパーが受けている風も感じられないので、計器類だけが頼りだった。

 

「一番最初に、調子が悪くなる可能性があるものは、全部確認したいね」とスペードは言っていた。

 

他のクルーが立ち去ると、GCSは静かだった。ドアが閉められ鍵がかけられた。最初の数分間、スペードとスパークルは攻撃計画をもう一度おさらいした。攻撃に望まれているポイントや、ミサイル発射時の着弾点について話し合った。攻撃を中止しなければならなくなった場合に、スパークルがミサイルを誘導する地点も再確認した。

 

「作戦中止になったら、即、レーザーを点けるのを忘れないようにしないとな」とスペードは言い、ドローンのヘルファイヤーミサイルを攻撃目標に誘導する収束光のことを気にした。

 

一連の作業は15分ほどかかった。そして、攻撃目標が現れるのを待つ態勢に入った。

 

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生活パターン

 

攻撃目標が住んでいる家はビスケットのような色をした平屋で、人の頭ほどの高さの塀と鉄の門があった。攻撃目標のバイクは壁にもたれて駐められていた。何も動きはなかった。スペードはリーパーをトラック状のパターンで飛行させ続けていた。スパークルは住居の監視を続け、十字線が建物に合うようカメラを調整し続けた。

 

スペードは言う。「すべてを調整して完全にしなければならないので、最初の8回だか10回の飛行はなかなかエキサイティングだね」

 

しかし、すぐに退屈になる。瞬きもせず攻撃目標に目を向け続けるのはRPAに特徴的な作戦行動だが、それはもっとも退屈な任務でもある。クルーは一軒の家を見続けながら何時間も過ごすことがある。

 

気をそらさないために、RPAのクルーは暇つぶしのゲームをするようになった。ラスベガスで一番のレストランはどこか議論したり、スポーツのスコアを見たり、スタッフの情報伝達を支援する安全なテキストメッセンジャープログラム、Microsoft Internet Relay Chatを使ってRPAビンゴをしたりする。

 

パイロットはカードを作り、ロバとか車とか、なにかをスクリーンで見つけるたびに、ビンゴの得点にするのよ」とスパークルは言う。

 

クルーは、敵戦士が林で小便をするのを数え切れないくらい見てきたし、セックスをするのを見ることもあるし、動物としているのを見ることすらある。ある計器操作官は、アフガニスタンの攻撃目標兵士が山羊と一時間も取っ組み合っているのを見たという。情報分析官も見ることができるよう、ぐっとズームインすることがよくある。

 

クルーは攻撃目標を2,3ヶ月追跡することも珍しくはない。監視を続けると、ターゲットに対して、他の戦闘パイロットや兵士は持つことがない親近感が芽生える。クルーはターゲットの家族を知るようになる。家族の行くモスク、子供の学校まで知っているのだ。

 

「ターゲットに対して親近感を持つことは理解できるわ」とスパークルは言う。「でも、それは間違っているし、ここでサポートしようとしている人々に対する裏切りになるわ。私たちはそこに行かないだけで、攻撃をしている。それには理由がある。彼らは我々の友軍に打撃を与えている勢力の一部と結託している。結局のところ、煎じ詰めれば、他のことはどうでも良いはずだわ」

 

話を住宅地に戻すと、スパークルとスペードは監視と待機を1時間以上続けた。シフト勤務が始まってから2時間経った頃、この地域ではよく見かけるだぼだぼのシャツとパンツを着てターゲットが遂にドアから出てきた。

 

「出てきたわ、」と、スクリーンの真ん中に映っている男に照準の十字線を合わせながらスパークルが言った。

 

スペードとスパークルは即座に男に照準を合わせ、興奮が走った。彼が小便をしようと壁沿いに立ち止まると、十字線は彼を捕まえた。用が済むと、彼は家の中に戻っていった。こうしたことが何時間かに渡り繰り返された後、彼はやっとバイクにまたがった。

 

ヘッドセットを装着する。不要な無線が切られた。部屋には誰も入れない。非常に静かだった。

 

「ヘッドセット装着したということはゲームの時間だということよ」とスパークルは言った。「戦闘準備完了」

 

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「戦闘準備完了」

 

ターゲットに十字線を合わせ続けるうちにスパークルの指がうずき始めた。それは、いよいよ攻撃という時になると常だった。最初の実戦攻撃では、アフガニスタンの15人の兵士一群に向けてレーザー誘導弾を打ち込もうという直前に不安から手が麻痺した。

 

「そのときこんな風に考えていたのを覚えている。この爆弾をこの悪漢たちにまさに落とそうとしているんだ」と、スパークルは語る。「ファイブ、シックス、テンとカウントすれば、別の一日が始まる。ヘルメットをかぶらなきゃ」

 

その隣で、スペードはリーパーの高度を保ち攻撃目標に向かっていた。ターゲットの男はバイクを動かし、住宅街を抜けて舗装されていない道路に出た。スパークルの十字の照準は彼から外れることはなかった。

 

スパークルが男を追跡する一方、スペードは自分の飛行路を確認し、頭の中で計算を始めた。今のスピードでは、彼を逃すだろう。他のクルーがミサイルを撃ち込もうとしている。そっちの見込みは良くて半々、こっちはまるでない。

 

「後退。」スペードはスパークルに伝え、、他のクルーに攻撃を任せた。

 

スパークルとスペードには、ミサイルを撃てなかったことを後悔している暇はなかった。最初の攻撃が失敗した場合にフォローをする準備をしなければならなかった。スパークルはバイクを追跡し続けた。

 

「他の連中が攻撃のタイミングを逃してくれれば、攻撃できるのにね」とスパークルは言った。

 

スペードは後退を済ませ、他のクルーの発射にあわせ、攻撃目標に向けて引き返し始めた。一組のヘルファイヤーミサイルがリーパーのレイルから発射され、バイクの正面に着弾し、ターゲットを破片と共に吹っ飛ばした。もう1台のリーパーは離脱し、その後にスペードが入った。スパークルは攻撃で生じた煙と破片に照準を合わせ続けた。戦果を評価するのが彼らの任務だった。そして、数千マイル彼方で命を奪ったことに対する気持ちと折り合いをつけることも、彼らの任務だった。

 

「人で一杯のトラックを撃てば、至る所に手足が散乱する」とスパークルは話した。「攻撃を受けた残骸の中から下半身を失った男が這い出してきたのを見たことがある。ゆっくり死んでいったわ。それを見なければならないの。目を背けることはできないわ。やさしいお嬢さんではこの仕事は勤まらないの。それじゃ悪夢にうなされることになるわ」

 

RPAの操縦者を苦しめるのは狙撃ではない。その後に起こることだ。他の戦闘パイロットと違い、RPAのパイロットと計器操作官は攻撃の後も近くをうろうろして、攻撃成功の確認とさらなる情報収集を行う。そのために、リーパーのセンサーポッドは地面にできた穴と吹き飛ばされた体を画面の中央に捉え続ける。

 

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スパークルは地面の至る所に熱源があることを認めたが、それは体の一部らしかった。ターゲットは死んだが、いつもこういう具合ではない。ヘルファイアーミサイルの爆発物は12ポンド(約5.4キログラム)しかないので、りゅう散弾によってターゲットが散らばった状態にあることを確認することが重要になる。

 

他のリーパーは給油と装備補充のため帰還する中、スペードはターゲットの上にとどまり、村人が燻っているバイクに駆け寄って来るのを監視する。すぐにトラックが到着し、吹き飛ばされたターゲットの体を集めるのをスペードとスパークルは見た。

 

「ただの死体よ」とスパークルは言う。「私は死んだ鹿に肘まで突っ込んだりしながら育ったのよ。やらなきゃならないことをやるだけ。あいつは死んだわ。後は埋葬されるのを監視するだけ」


米軍健康調査センターの2011年調査で明らかになったのは、RPAのクルーは「重度の任務によるストレス」を抱えているということだ。専門家は、長時間のシフト勤務と戦闘における暴力がストレスが高い理由だと考えている。

 

論文の共著者である疫学者、ジャン・リン・オットーは、ニューヨークタイムズにこう語っている。「遠隔操縦機のパイロットは地上の同じ場所を何日にもわたり見続けることがある。彼らは虐殺された死体を目にすることにもなる。有人機のパイロットには、そんなことは有り得ない。できるだけ早くその場から離脱するからだ」

 

現在、空軍は、心理学者、牧師、医師、カウンセラーからなるメンタルヘルス対応チームを持っており、パイロットや計器操作官を助けるために大型のRPA基地に配備している。しかし、スペードは自分は御世話になったことがないという。彼はいつも部隊で受けた最初の状況説明会の一つを思い出す。分析官は、タリバンアルカイダは自爆装置付きのベストを子供に着せると彼に教えた。彼は自分の子供に思いを寄せる。

 

「俺はまず第一に父親で、第二に空軍パイロットだ」とスペードは言う。「無実の子供に非道いことをしようというなら、俺は殺すことを躊躇わないね」

 

しかし、それは、彼らがモニターで何を見ても衝撃を受けないということではない。スペードは、タリバンの兵士が縄で縛られ目隠しをされた男たちを連れ出し、道の真ん中で処刑するのを見たことがある。彼にできることは何もなかった。スパークルは、アフガンの男が妻を中庭に引きずりだして殴るのを見て、涙をこぼしたことがあるという。砲撃してやりたかったが、そうはいかなかった。だから、引き金を引くチャンスがあれば躊躇わない。

 

スパークルは言う。「連中が女に対してどういう扱いをするのか、知っているわ。学校に行こうとするからと子供を撃つのなら、そいつが日の暮れる前に墓に埋められたって構うことないわ。うろたえたり泣くようなことではないわ。できるものなら、彼らも私を瞬く間もなく殺すでしょうからね」

 

可能であれば、ムスリムは死者を日の沈む前に埋めようとするので、葬儀の監視はRPAの重要な任務だとスペードは言う。

 

「もし、大勢の人が参列すれば、その地域には多くの支援者がいるということがわかる」

 

爆撃地点周辺を旋回しながら、スペードとスパークルは墓の近くに50人ほどの人がまっすぐ長く数列に並んでいるのを観察した。一列は15人くらいだった。観察には半時間程かかった。アフガン人がターゲットを埋葬すると、スパークルは動画転送が済んだことを確かめた。後で情報分析官がそれをチェックして、次のターゲットの手がかりとするのだ。

 

シフト勤務の終わりに、スペードとスパークルは作戦の報告を行った。攻撃のビデオをもう一度見た。どんなミスも議論し、修正を行う。自分で撃つことができなかったこと以外、スペードは作戦で起きたことすべてに満足だった。

 

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ドッグ・パーク

 

報告後、スパークルは朝食を出すバーで部隊の仲間の何人かと会い、軍人一杯無料のドリンクにありついた。

 

「ここに来ると、報われたと思えるのよ」と彼女は言った。

 

無料のブルームーンドラフトをやりながら、ソーセージ付きのベーコン・アンド・エッグを注文した。部隊の仲間は、攻撃や仕事のストレスについて話せる唯一の仲間だ。仕事で女性の友達を作るのが難しくなったとスパークルは言う。

 

彼女は言う。「自分が関わっている仕事は、他の人が送っている普通の生活と違う種類のものだから、世間にちょっと気後れがするのよ。子供がもっともっと欲しいとだけ思い、馬鹿げたリアリティーTVにのめり込んでいる女たちとつきあうのはしんどいと思うことが多いわ。国境の外では世界がどんなに大変か、将来子供がどんな危機を目にしなければならないか、そんなことは知らないものね。だから軽薄でけちなのよ。この仕事をしていると、世の中のけちでつまらないことに対して我慢できるようになるわ。世界の恐怖や宗教の過ちについて、目を開かされるから」

 

デートをするのも簡単ではない。バーの支配人や薬学校の生徒ともデートをしたが、世界が違いすぎた。

 

「すごく単純な仕事をしているだけのような男とつきあうとするでしょ、」と彼女は言う。「そいつらは、ああだ、こうだと、どうしようもなくつまらないことに文句を垂れるだけなのよ。男らしさというのはこういうものだという思い込みに縛られているだけ。自分の仕事や金を自慢したいだけなのよ。それだけのことなの。どれだけの重さのものを持ち上げられるかなんて、私はこれっぽっちも気にしないわよ。それをわかって欲しい」

 

彼女は同僚の計器操作官と結婚した。

 

「ああいう仕事をやっていくには、人の命を奪っても怪物ということにはならないってことを理解してくれる人といる方が良いのよ」

 

報告を終えると、スペードは1時間ほどドライブをしてリラックスする。このドライブが戦闘と日常生活を隔てているのだ。私道に入ると、太陽は昇っており、タイルの床で子供が車で遊ぶ音で家はにぎやかだ。ベッドに潜り込みながら、スペードは妻に忙しかった昨晩の話をする。何も特別なことはないが、夫の仕事は建物のまわりを飛んでいただけではないと知るだけで彼の妻には充分なのだ。夕食に起きてきたときに、彼はもっと話をするだろう。今、スペードはただ眠りたかった。

 

スペードはこう語る。「7000マイル彼方で戦闘していたら、多分、何もかも失っていたろうね。そりゃあ、仕事がうまくいって、この世から悪人が一人減ったら、すごく興奮もするさ。でも、それで個人的な生活を犠牲にしなければならないとしたら、悲しいことだよ」

 

スパークルが家に帰ると、公園に出かけたくてたまらない犬が待っていた。彼女と犬にとってそれは儀式のようなもので、ドッグ・パークの常連なのだ。他に誰も軍隊関係者がいないのが、スパークルは気に入っている。彼女はドッグ・パークでは「スパークル」ではないのだ。

 

「腰掛けて、犬が遊ぶのを見ているのは楽しいわ。動物の遊び場のためにたいそうなお金をかけられるこの世界を守るために頑張ろうという気持ちになるわ。ここで会う女の人たちは強くて自立しているわ。それに、犬のおかげで仕事以外の話題ができる。リラックスできる気軽な雰囲気があるのよ」

 

友達は、彼女がRPA部隊に所属していることは知っているが、戦場から7000マイル離れて戦争を遂行することと郊外の暮らしを両立させるのがどんなものか、想像もつかない。

 

友達が尋ねる。「今日も攻撃したの?」

 

彼女は答える。「していたとしても、言えないわ」

 

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アメリカン・スナイパー」もすごい話でしたが、このドローン・パイロットのルポでは、日常生活の中で仕事として戦争が行われていることが衝撃的です。ドローンによる攻撃の背後にはこうしてドローンを操縦している人がいるわけで、命を失うことはなくとも、メンタル的には非常にきつい仕事だと思います。テレビゲーム感覚で気楽にできるものではないことが良くわかります。

 

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