ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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人類史上長者番付ベスト10

時代を超えた富の比較

ジョン・D・ロックフェラーやチンギス・カンよりも金持ちな人とは誰だろうか?簡単な質問だが、答えるのは難しい。

 

この史上長者番付は長い時間をかけて経済学者や歴史学者にインタビューした結果をもとにしている。時代や経済システムの大きな違いを乗り越えて富を比較するという困難にもかかわらず、この順位をいかに決定したかということについては、詳細を別途述べたい。

 

さしあたっては、以下のリストは厳密だが議論の余地もあるものであり、歴史上もっとも財をなした人物を経済的影響力の順番に並べる試みであると言っておけば充分だろう。

 

10位 チンギス・カン

【生没年】1162年〜1227年
【国】モンゴル帝国
【財産】莫大な土地、それ以外はさほどでもない

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チンギス・カンが人類史上もっとも成功した軍事的リーダーの一人であったことは疑いない。最盛時には中国から欧州にまで広がったモンゴル帝国のリーダーとして、彼は歴史上最大の一つながりの帝国を支配した。しかし、その強大な権力にもかかわらず、彼は富を蓄えようとは決してしなかったと学者はいう。むしろ、逆にその気前の良さが彼の影響力の鍵だった。

 

CUNYクイーンカレッジの歴史学教授、モーリス・ロザービは「彼の成功の基盤は、戦利品を兵士や他の指揮官と分け合ったことにある」という。

 

チンギス・カンと近代世界の成立」の著者であるジャック・ウェザーフォードの説明に拠れば、多くの前近代の軍隊とは違い、モンゴルの兵士は個人的に戦利品をせしめることを禁止されていた。一つの地域を征服すると、すべての戦利品は書記官によって目録化され、後で軍人とその家族に分配された。

 

チンギスも戦利品の分け前を受け取ったが、それは彼を大富豪にするほどのものではなかった。「彼は自分や一族のために宮殿を作らなかったし、寺院や墓はおろか、家すら建てなかった」とウェザーフォードは言う。「彼は、羊毛のパオで生まれ、羊毛のパオで死んだ。彼は死んだとき、他の人と同じようにフェルトにくるまれて埋められたのだ」

 

9位 ビル・ゲイツ

【生年】1955年
【国】アメリカ合衆国
【財産】789億ドル(1ドル120円換算で9兆4700億円)

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存命中の人物であるため、ビル・ゲイツの財産は推算が容易だ。今年、フォーブス誌はマイクロソフト設立者の総財産は789億ドルであると推定した。これは、世界第2位の富豪であるZaraの共同設立者アマンシオ・オルテガを、およそ80億ドル上回る。

 

8位 アラン・ルーファス(アラン・ザ・レッド)

【生没年】1040年〜1093年
【国】イングランド
【財産】1940億ドル(1ドル120円換算で23兆3000億円)

 

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征服王ウィリアム1世の甥、ルーファスは叔父のノルマン征服に加わった。フィリップ・ベレスフォードとビル・ルビンスタインはその著書「富豪の中の富豪」の中で、彼の遺産は1万1000ポンドで、これは当時のイングランドGDPの7%に相当すると述べている。これは2014年のドル価値換算で1940億ドルに上るものとみられる。

 

7位 ジョン・D・ロックフェラー

【生没年】1839年〜1937年
【国】アメリカ合衆国
【財産】3410億ドル(1ドル120円換算で40兆9000億円)

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ロックフェラーは石油産業への投資を1863年に始め、1880年には、彼のスタンダード・オイル社はアメリカの石油生産の90%を支配していた。

 

ニューヨーク・タイムス誌の追悼文が述べたところでは、1918年の連邦所得税や全財産についての推算によれば、ロックフェラーの全財産は15億ドルであり、MeasuringWorthのデータによれば、この年の米国の経済生産のほぼ2%に相当する(米国では国民総所得について公式記録を1932年まで取っていなかった)。

2014年に同じシェアを持っているとすれば、それは3410億ドルとなるだろう。

 

6位 アンドリュー・カーネギー

【生没年】1835年〜1919年
【国】アメリカ合衆国
【財産】3720億ドル(1ドル120円換算で44兆6000億円)

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マスコミの注目を集めたのはロックフェラーだったが、アンドリュー・カーネギーこそが史上もっとも金持ちのアメリカ人だろう。スコットランドからの移民である彼は、1901年に自分の会社USスティールをJ.P.モルガンに4億8000万ドルで売却した。この額は米国のGDPの2.1%より少し多く、カーネギーの経済力は2014年における3720億ドルにあたる。

 

5位 ヨシフ・スターリン

【生没年】1878年〜1953年
【国】ソビエト連邦共和国
【財産】世界のGDPに9.6%を占める一国の完全な支配

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スターリンは、現代の経済史においてはあまり取り上げられない人物である。絶対権力を持った独裁者であり、世界最大の経済圏の一つを支配した男だった。スターリンの持つ富と旧ソ連の持つ富は事実上不可分のものではあったが、経済的支配力とソ連の完全な支配という類を見ない彼の組み合わせを理由に、多数の経済学者が人類史上の金持ちの一人として彼の名をあげた。

 

経済学者の理屈は良く分かる。OECDのデータによれば、スターリンの死から遡ること3年の1950年には、世界の経済生産のおよそ9.5%をソ連は占めていた。2014年に換算すれば、この額は7.5兆ドル近くに相当する。

 

その金は直接スターリンのものになったわけではないが、彼にはソビエトの経済力を好きなようにする力があった。

 

「彼には巨大な権力があった。その権力でなんでも好きなことができた」とアラバマ大学バーミングハム校の歴史学教授、ジョージ・O・リバーは述べている。「小切手も預金残高も気にせず、彼は地球上の陸地の1/6を操れたのだ」

 

だからといって、従来の意味でスターリンを金持ちだということができるだろうか。リバー教授も確信は持っていない。「彼は大金持ちの仲間だっただろうか」と教授も自問していた。「富の定義を拡張すればそうかもしれないが、だとしてもそれは彼の富ではなかった。彼は国家の富を支配していたということなのだ」

 

そうだとしても、歴史上もっとも経済に対する力を持った人々のリストからスターリンの名前を外すことは難しいだろう。彼の富を確定することはできなくとも、この第一書記長個人の経済的影響力は間違いなく近世史において比肩する者がいないほどのものであった。

 

4位 アクバル1世

【生没年】1542年〜1605年
【国】インド
【財産】世界のGDPの25%を占める帝国の支配

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インドのムガル王朝のもっとも偉大な皇帝であるアクバル1世は、当時の世界経済生産の約1/4を占めていた帝国を統治した。フォーチュン誌のクリス・マシューズは経済史学者の故アンガス・マジソンを引用し、アクバル治世下におけるインドの資本当りのGDPはエリザベス統治時代のイングランドに匹敵するが、「支配階級の豪奢な暮らしぶりはヨーロッパ社会のそれをはるかに上回るものであった」という。

 

当時のインドのエリート階級は西洋のエリート階級よりも豊かであったという主張は、経済学者ブランコ・ミラノビッチによって裏付けられており、彼の研究によればムガル王朝は民衆から富を引き出すことにもっとも長けた帝国の一つであったという。

 

3位 神宗皇帝

【生没年】1048年〜1085年
【国】宋
【財産】世界のGDPの25〜30%を占める帝国の支配

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中国の宋王朝(960〜1279年)は、史上もっとも経済的に強力な帝国の一つであった。台湾・淡江大学で宋王朝の経済史を研究しているロナルド・A・エドワーズ教授によれば、最盛期に宋は世界の経済生産の25%ないし30%を占めていたという。

 

帝国の富は技術革新と卓越した徴税力の両方に支えられており、エドワードによれば、同時期の欧州各国政府の数百年先を行っていたということだ。同教授は、宋王朝がきわめて中央集権化されており、これは皇帝が経済に関して強大な支配を有していたことを示していると指摘している。

 

2位 アウグストゥスカエサル

【生没年】紀元前63年〜紀元後14年
【国】ローマ
【財産】4.6兆ドル(1ドル120円換算で552兆円)

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当時世界の25%から30%の経済生産高を占めていた帝国を支配したのはアウグストゥスカエサルだけではなかったが、スタンフォード歴史学教授イアン・モーリスによれば、一時アウグストゥスの私財は帝国経済の1/5を占めていたという。この富は、2014年に換算すれば約4.6兆ドルということになる。モーリスは、「しばらくの間、アウグストゥスはエジプトを個人的に所有していた」と付け加える。これを上回るのは容易ではない。

 

1位 マンサ・ムーサ

【生没年】1280年〜1337年
【国】マリ
【財産】誰も表現できないほどの富

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ティンブクツの王、マンサ・ムーサは、歴史上もっとも富裕な人物とされている。フェラーム大学歴史学教授リチャード・スミスによると、金への需要が特別に高かった当時にあって、ムーサの西アフリカ王国は世界最大の金産出額を誇っていたらしい。

 

実際、ムーサはどれだけ金持ちだったのだろうか。彼の富を正確に算出する術はない。記録はほとんどないが、現在に残る情報は、王国の富は当時にあっても記録不可能であったことを伝えている。

 

蕩尽があまりに激しくエジプトでは通貨危機が発生したといわれる有名なムーサのメッカへの巡礼についての逸話のなかでは、数十頭のラクダが数百ポンドの金塊を運んだとされている。(スミス教授によると、マリ王国の金産出量はおそらく年1トンに達したらしい。)ムーサの軍隊は、弓手4万人を含む20万人の兵士から成っていたと言われるが、この軍勢を戦場に集めるには、現代の超大国でも苦労することがあるだろう。

 

しかし、王の正確な富を捉えようとすると、問題を見逃すことになる。ミシガン大学歴史学准教授ルドルフ・ウェアが説明するとおり、ムーサの富はあまりに莫大でそれを記述するのに苦労するほどだったのだ。

 

「彼の話は、今まで目にされたもっとも豊かな人物の話だ。そこがポイントだ」とウェア准教授は言う。「それを説明する言葉を人々は探そうとした。黄金の笏を持ち、黄金の玉座を占め、金杯を携え、黄金の冠を戴冠する彼の姿を描いた絵が多数ある。人類が持てる限りの黄金を想像し、それをさらに倍にしたらどうなるか考えると良い。それこそが、こうした記述が伝えようとしていたものなのだ」

 

誰も想像すらできないほどの富だというなら、それはとんでもない金持ちだということだ。

 

5位のスターリンから上は単位が国なので、もう別の世界という感じですね。それでも、ビル・ゲイツチンギス・カンよりも金持ちだという結論になるとは。最初に認めているように、無茶ぶりも良いところではあるのですが、それでも数字にすると色々と議論の種が出てくるのが面白いところです。お金とランキングは、ゲスいアメリカ人の大好物ですが、便利な指標であるのは間違いありません。

 

最近の研究では、中世においてはアジアはヨーロッパよりも豊かであったということが明らかになってきているようですが、これまでの西洋偏重の歴史観に対する再考がここにも反映されているのが興味深いと思います。