ONEDOG:壁打翻訳手習帳

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10章 2019年

“The Age of Spiritual Machine” by Ray Kurzweil

10章 2019年

コンピューター自体に起こる変化

 いまや、コンピューターはほとんど直接目にすることはない。至る所に埋め込まれているからだ。壁に、テーブルに、椅子に、机に、衣服に、宝石に、そして体に。 
 人々は、眼鏡やコンタクトレンズに埋め込まれた三次元ディスプレイを日常的に使っている。この「直視型」ディスプレイは、きわめて現実感のある仮想的光景を現実の光景に重ね合わせて作り出す。このディスプレイ技術は、画像を直接網膜に投影するもので、人間の視覚の解像度限界を上回ることができ、視覚障害の有無に関わりなく広く用いられている。直視ディスプレイは、3つのモードで動作する。

1.固定表示:表示画像は利用者の位置と向きに対して定常的である。頭を動かせば、バーチャルの画像はリアルの光景に対して相対的に移動する。このモードは、バーチャル文書を扱う場合によく利用される。
2.仮想現実オーバーレイ表示:この表示モードでは、利用者が頭を動かしたり別の方に顔を向ければ、表示画像も移動して、バーチャルの人物や物や光景とリアルの光景の相対的な位置関係はそのままに見える。直視型ディスプレイが人の像を表示している場合(その人物が地理的に離れたところから三次元テレビ電話をかけてきている実在の人物であろうが、コンピューターが作り上げた「シミュレートされた」人物であろうが)、その表示されている人物はユーザーが見ているリアルの光景のなかで同じ場所にいるように見える。頭を動かしても、リアルの光景の中に表示されるバーチャルの人物は同じところにいるように見えるのだ。
3.仮想現実専用表示:現実の光景が遮断されることを除けば、仮想現実オーバーレイ表示と同じであり、投影されたバーチャルの光景だけを見ることになる。現実を離れて、仮想現実環境に没入する場合にこのモードを用いる。

 光学レンズだけではなく、「聴覚レンズ」というものもあるが、これは三次元空間で正確な位置から鳴るように聞こえるハイレゾの音響を発生させるものである。これは眼鏡に組み込まれたり、宝飾品として身につけたり、外耳道に手術で埋め込むことができる。
 キーボードは珍しくなったが、まだ使われている。コンピューターとのやりとりのほとんどは、手や指や顔の表情を使ったジェスチャーを通じてか、双方向の自然言語の会話によるコミュニケーションを通じてである。コンピューターに対しても、人間のアシスタントに対するのと同じように、話し言葉ジェスチャーを通じてコミュニケーションするようになった。コンピューターパーソナルアシスタントの性格が非常に注目されるようになり、様々な選択肢が提供されるようになった。ユーザーは、自分のインテリジェントアシスタントの性格のモデルを、自分自身を含めた実際の人間にすることもできるし、一般に公開されているパーソナリティーや自身の友達や仲間の様々な特徴を組み合わせることも選択できる。
 普通、情報処理する内容自体はきわめて個人的なものであるにも関わらず、人々は「パーソナルコンピューター」を特定の1台しか持っていないということはない。情報処理能力と超広帯域の無線通信は至る所に埋め込まれている。ケーブルはほとんど見かけなくなった。
 (1999年時点のドル価値換算での)4000ドルのコンピューターの情報処理能力は、人間の脳の情報処理能力とほぼ同等である(毎秒2x10^16の演算が可能)。人類が種全体として有する情報処理能力の合計、つまり、全人類の脳の情報処理能力の総和に人類が作り出した全コンピューターの情報処理能力の総和を加えた全情報処理能力の内、10%以上がコンピューターである。
 回転ディスク型のメモリーやその他の機械機構を持つ情報デバイスは、完全に電子デバイスに置き換えられた。三次元ナノチューブ格子が、現在優勢となっている演算回路方式である。
 コンピューターの「演算処理」の大半は、いまや、超大規模並列ニューラルネットと遺伝子アルゴリズムに費やされている。
 スキャニングによる人間の脳のリバースエンジニアリングでは、重要な進歩が達成されている。脳は数多くの特化した領域からなっており、それぞれの領域はニューロン間のつながり方について独自の配線構造とアーキテクチャーを持っていることが、今では完全に理解されている。脳の超大規模並列アルゴリズムは理解され始めており、その結果はコンピューターのニューラルネットワークの設計にも応用されている。人間の遺伝子コードは脳のどの領域のニューロン間の接続も正確に指定してはおらず、むしろ接続が形成され生き残る迅速な発達プロセスを起こすことに関与していることが知られている。コンピューターのニューラルネットワーク配線の標準的プロセスでは、同様の遺伝的進化アルゴリズムが用いられている。
 最新の光学イメージング技術はコンピューター制御されており、量子力学に基づいた回折式デバイスを用いる。ほとんどのレンズは、どんな方向からの光も検出できるこの小さなデバイスに置き換えられた。この針の頭くらいのサイズのカメラはいたるところにある。
 自律的なナノマシンは自身の運動をコントロールすることができ、かなりの演算能力も備えている。このミクロのマシンは、特に製造やプロセス管理といった商業的な応用にも使われ出しているが、主流となるには至っていない。

 

前回の2009年に続き、2019年。全体的に、2009年の延長という感じです。前章と同様に、この後、教育、障害者、コミュニケーション、ビジネス・経済、政治と社会、芸術、戦争、健康医療、哲学が論じられますが、いずれも2009年の延長という印象です。